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【マニア向け】Brachypelma anitha と smithi と hamorii を解説

この記事のめちゃくちゃざっくりした要約

2017年の論文で「昔annithaって呼んでた蜘蛛ね、DNA的にはsmithiと同種って分かったわ。あと今までsmithiって呼んでたやつはhamoriiの間違いだったわ」みたいな発表があった。つまり現在は

  • Brachypelma annithaと呼ばれてた種
    →現在はsmithiと呼ぶ。”annitha”という名前は”smithi”を指す
  • Brachypelma smithiと呼ばれてた種
    →現在はhamoriiと呼ぶ

あと、smithiとhamoriiの違いも紹介します

例の論文

2017年に発表されたのは↓の論文

Medoza, J. & Francke O. (2017). Systematic revision of Brachypelma red-kneed tarantulas (Araneae: Theraphosadae), and the use of DNA barcodes to assist in the identification and conservation of CITES-listed species. Invertebrate Systematics, vol. 31, 157-179

以下、この論文を「例の論文」と呼びます

Brachypelma annitha は smithi と同種

下画像の図19,20,21あたりが一般的にBrachypelma annitha(アカプルコレッドニーだのメキシカンジャイアントオレンジニー)と呼ばれていた種です。2017年まではね。

しかし図22を含めてこれら4つは遺伝子的にはBrachypelma smithiと同種だし、annithaもsmithiと呼ぶことにしようよ(正確にはjunior synonym of B. smithi)と例の論文で発表されました。

”DNAバーコード”という手法によってannithaがsmithiと同種だと分かった、というだけなのでこの話は簡単です。

Brachypelma smithi は実はhamorii

解説するときにややこしいのはこっちです。

一番初めにBrachypelma smithiという名前が記載されたのは1897年です。その際、「このような特徴を持つ個体をBrachypelma smithiとする」ための標本も発表されました。

この時、標本としてメスの個体を発表したはずが、誤って若いオスの個体をメスとしてしまったと後に判明します。メスの標本を世に示すために再記載を行わなければなりません。

1994年、Smithという人が再記載を行います。Smithは再記載にあたってNHMという機関に寄贈されていた“ある標本”を使用しました。

ところがその“ある標本”を後々調べてみたら「1994年以前にBrachypelma hamoriiとしてすでに登録されているものを使ってしまった」ということが分かりました。

The type material of B. smithi was originally identified as female
by F. O. Pickard-Cambridge (1897). Schiapelli and Gerschman
inspected the specimen in May 1968 and noticed that it was not a
female, but an immature male. Smith (1994) confirmed that the
holotype was a juvenile male and redescribed the species using
an adult female deposited in the NHM with the code
BM1898.12.24.33 and with a male from the Hull-Williams
collection without a catalogue number. However, when the
material deposited in the NHM was cross-examined for this
study, we found that the catalogue number BM1898.12.24.33
was in fact assigned to the holotype and no other specimen was
found labelled with that number. The adult male Smith used to
redescribe the species could not be located. NHM curator Janet
Beccaloni indicated that it was not possible to find any registration
for those specimens, and that they are presumably lost. Based on
the redescription made by Smith (1994), it is apparent that the
specimens he used belong to B. hamorii and not B. smithi.

それ以降のさまざまな研究でSmithの標本が引用されてしまいました。

つまり、さまざまな研究者がBrachypelma hamoriiをsmithiだとして論文を発表したのです。

この事実から、Brachypelma smithiだとされてペット用に売られていたのはhamoriiだったんだねと指摘されています。

ですから、学名が変わったというわけではなく間違いだったと判明したという感じですかね。

これから購入する個体、すでに飼ってる個体が本当は何かどう調べればいいの?

購入する(した)お店に聞いてください。お店に「どういう学名の下で繁殖が行われたものか」または「どこで捕獲された個体か」ということを確認しましょう。

そこでしっかり答えてくれるお店でなければ、その個体で繁殖を狙うのは良くない(=ハイブリッド個体を生み出す可能性が高まる)ことになります。

そのお店がタランチュラ販売について、ある程度しっかりしてればいつ頃、どういう名前で輸入されたかということが分かると思います。

結局どういうのがsmithiでhamoriiやねん

例の論文の中でBrachypelma smithi(旧annitha)の見た目として紹介されているのは以下の4つ

これらを見ると図19,20,21はいわゆるアカプルコレッドニー(旧annithaのコモンネーム)っぽい見た目をしており、納得できます。ただ図22は普通のメキシカンレッドニーつまりBrachypelma hamorii(旧smithi)っぽい見た目をしており、もうよく分からないよね。とはいえ、これら4つは遺伝子的には同種であり、色彩の違いは地域特有のものというのが近年主流の見解です。

では、hamorii(旧smithi)はどのような見た目かというと以下の4つ

え。37と38はまだ納得できるけど39ってメキシカンフレームニー(Brachypelma auratum)に見えるし、40ってsmithi(旧annitha)じゃね?

と思いましたが、例の論文での主張はこれら4つはBrachypelma hamoriiである、とのことです。

なのでね、見た目で「これは……smithi!w」とか決めてはいけないということですね。

まとめ

学名の話

  • Brachypelma annithaと呼ばれてた種
    →現在はsmithiと呼ぶ
  • Brachypelma smithiと呼ばれてた種
    →現在はhamoriiと呼ぶ

見た目

アカプルコレッドニーとして↑みたいなのが売られているけどBrachypelma smithi(旧annitha)とは限らないし

メキシカンレッドニーとして↑みたいなのが売られているけどhamorii(旧smithi)とは限らないやで

繁殖に挑戦なさる方は↓の文献を読んで挑戦しましょう。

参考文献

Medoza, J. & Francke O. (2017). Systematic revision of Brachypelma red-kneed tarantulas (Araneae: Theraphosadae), and the use of DNA barcodes to assist in the identification and conservation of CITES-listed species. Invertebrate Systematics, vol. 31, 157-179

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